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誰も上のグレードを取れない評価制度に起きること

誰も上のグレードを取れない評価制度に起きること

まとめ

  • 誰も達成できていないグレードが存在する場合、それは個人の問題ではなく制度の失敗かもしれない
  • 「何をすれば上のグレードになれるか分からない」は評価基準の透明性の欠如が原因の一つである
  • 担当案件の重さが評価機会を左右する構造は、努力が報われにくい状況を生みやすい
  • マネジメントが「聞くだけ」で終わると、制度への不信感が蓄積しやすい
  • 「予防」の貢献は見えにくく、評価者の解像度が届かないことがあるかもしれない

チームの評価制度を話し合う場で、こんな状況が起きることがある。

「上のグレードに上がるための行動を取れている人がほとんどいない。能力の問題じゃなく、機会がないんだと思う」

こういった問題提起に対して、多くのメンバーが共感する。シニアエンジニアや経験豊富なメンバーも含めて、誰も上のグレードに到達できていない——そんな状況が続いていることがある。

私自身はもう諦めているので不服はないが、必死に残業して期日に間に合わせようとしているメンバーにとっては、これは酷だと感じる。


「何をすれば良いか分からない」という状態

評価制度を作る側は「定義を書いた」時点で仕事が終わったと思いがちだ。しかし現場のエンジニアからすると、定義の文言が抽象的すぎて「で、具体的に何をすれば?」に答えが出ないことがある。

たとえば「横断的な課題解決をリードする」といった基準があったとして、どの粒度か、どの頻度か、1回やれば良いのか——こういう曖昧さが残ったまま運用されると、評価者自身も判断に迷い、結果的に誰も上がれない均衡が生まれやすい。


担当案件の重さが評価機会を決める構造

案件の重さと評価機会の間に不公平が生まれることがある。

  • 軽い案件を担当するチームは余裕があり、部の課題にも取り組めて評価されやすい
  • 重い案件を担当するチームは、チームをまたぐ取り組みや挑戦的な行動をする余裕がなく、行動範囲がチーム内に閉じてしまいがちだ

「残業しないと評価を上げるための行動ができない」という状況に陥っているエンジニアは少なくないかもしれない。育児や生活がある人にとって、残業前提の評価制度は実質的に機能しにくい。

マネジメント側は「案件の重さに関係なく、仕事の質で評価する」と言う。それは正論だが、「質の基準」が現場に具体的に伝わっていなければ、言っていることと運用が乖離したままになりやすい。


「予防」の貢献は可視化されない

上のグレードに必要とされる行動として「頼まれていないことをやる」がよく挙げられる。後で混乱しないよう先回りしてドキュメントを整備する、チケットに背景や判断根拠を丁寧に書いておく——こういった行動は、実際にやっているエンジニアが少なくないだろう。

しかし「業務時間中にやっているから普通の仕事」と見なされ、評価に結びつかないことがある。

一因として考えられるのは、 「予防」が可視化されない という構造だ。丁寧なドキュメントやチケットがあることで後々の混乱が起きない。しかし「起きなかった混乱」は誰も見えない。火を消した人は評価されやすい。火が出ないように動いた人は評価されにくい傾向があるかもしれない。

しかも、その貢献を受け取る側がいない。丁寧に書いたものを誰も読まない。やっていること自体は正しいのに、評価される回路が存在しない——そんな状況が起きていることがある。

雑に書く人と丁寧に書く人がいて、その差がチーム全体の生産性に影響しているはずなのに、評価者の解像度がそこまで届いていないケースもあるのではないだろうか。これは個人の努力の問題ではなく、 評価者が何を見るべきかを把握しきれていない ことが原因の一つかもしれない。


「聞くだけ」のマネジメントが信頼を壊す

問題提起の場でよく起きることがある。マネジメント層が「聞くだけ」で終わるパターンだ。

問題の構造には触れず、「しっかりやれば評価は上がる」「もっと発言してほしい」という言葉が返ってくる。具体的に何を変えるかは出てこない。

発言できる場はある。しかし何も変わらない。

さらに問題なのは、返ってくるアドバイス自体がズレていることがある。「コーディングでも十分評価できる」と言いながら、その例として挙げられるのが外部パートナーだったりする。パートナーエンジニアは基本的に開発に集中できる立場だ。社内のエンジニアはそれに加えて、MTG 参加、研修、アジェンダ設定、アラート対応、顧客対応——こういった業務を日常的に抱えている。同じ「コーディング」でも、使える時間と集中度がそもそも違う。

この発言が出てくる時点で、評価者が現場の実態を把握できていない可能性がある。把握できていない人が評価する立場にいるなら、何をどう頑張っても評価基準と実態がズレたままになりやすい。

心理的安全性があっても、意思決定が変わらなければ効果は限定的かもしれない。「聞いてあげる文化」と「変える文化」は別物といえるかもしれない。メンバーが問題を言語化して持ってきたとき、それを受け取るだけでなく何かを動かさなければ、次第に誰も問題提起しなくなることがある。


機能する評価制度に必要なこと

  1. 基準を具体化する : 抽象的な定義を実例・数値・頻度で補足する
  2. 構造的な機会を作る : 評価行動が残業前提になっているなら、業務設計から見直す
  3. フィードバックを閉じる : 問題提起を受け取ったら、どう動くかを返す

評価制度は、誰かが設計してそれで終わりではないかもしれない。誰も上のグレードを取れていないなら、それは制度が現実に追いついていないサインの一つかもしれない。

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